Table of Contents

オンライン授業を受けているのに、思ったほど成績が上がらない――。
一方で、同じ講義を受けているのに確実に成果を出す人もいます。
この違いは、単なる努力や才能の差ではなく、「学び方の中身」に隠されているのかもしれません。

コロナ以降、eラーニングは多くの学生にとって当たり前の学習スタイルになりました。
けれど、自由度が高い一方で、モチベーションの維持や集中力の管理が難しいと感じる人も少なくありません。
では、オンライン環境で“成果を出せる人”は何が違うのでしょうか?

台湾・長庚大学の研究チームが2024年に発表した論文(PLOS ONE)では、
学生の学習動機・学び方・燃え尽き症候群(バーンアウト)を分析し、
その組み合わせが成績をどう左右するかを明らかにしました。
結果、オンライン学習で伸びる人と伸びない人には、意外な心理的特徴の差があったのです。

eラーニング時代に問われる“学び方の質”

近年、オンライン学習(eラーニング)は、大学教育や専門分野の研修など、さまざまな場面で主流となりました。
時間や場所にとらわれず、自分のペースで学べる自由さは大きな魅力です。
しかしその一方で、モチベーションの維持や集中力の確保が難しいという問題を抱える人も多く、
「どう学ぶか」という学習スタイルの差が成果に大きく影響することが指摘されています。

従来の教育研究では、「どれだけ勉強時間を確保するか」「どれだけ努力するか」といった“量”の側面が重視されてきました。
けれど近年では、学習動機(motivation)自己効力感(self-efficacy)、そして燃え尽き(burnout)といった“質”の要素が、成績を左右する主要因であることが次第に明らかになってきています。

台湾・長庚大学の研究チームは、こうした心理的・行動的な要素に注目し、
「オンライン環境で成果を出せる学び方とは何か」を科学的に探ろうとしました。
この研究は、単なる勉強法の話ではなく、学びの質を決めるメカニズムを明らかにする教育心理学的アプローチなのです。

学習動機・学び方・燃え尽きの3つの軸から分析

研究の対象となったのは、台湾の長庚大学で医療技術を学ぶ大学生37名。
全員がオンライン形式の授業を受けており、学期の成績をもとに「上位層」「中位層」「下位層」の3つのグループに分類されました。
それぞれの学生について、学習動機・学び方・燃え尽き(バーンアウト)の3側面を詳細に調査しています。

具体的には、次の3つの心理尺度が用いられました。

  • MSLQ(Motivated Strategies for Learning Questionnaire):学習動機を測定。内発的動機、課題の価値、自己効力感などを評価。
  • ALSI(Approaches and Study Skills Inventory):学習スタイルを分析。深い理解(deep approach)や整理された学び方(organized studying)を把握。
  • MBI-SS(Maslach Burnout Inventory – Student Survey):学生の燃え尽き度を測定。感情的疲労、皮肉、自己評価の低下などを数値化。

これらのデータを統合して分析することで、研究チームは「どんな心理的特徴が学業成績を支えるのか」を探りました。
単に“頑張ったかどうか”ではなく、どんな意識と学習法が成果を生むのかを可視化することが、この研究の大きな狙いです。

上位層ほど“燃え尽きやすい”という逆説

分析の結果、最も成績の高い「上位層」の学生たちは、意外にも感情的疲労(emotional exhaustion)のスコアが最も高いことが分かりました。
つまり、学業で成果を出している学生ほど、精神的な疲れやストレスを強く感じていたのです。

研究チームは、この現象を「成果維持のプレッシャー」として説明しています。
上位層の学生は常に「次も良い成績を取らなければ」「期待に応えなければ」と自分を追い込みやすく、
その緊張が長期的に続くことで、疲労や燃え尽きを感じやすくなるというのです。

さらに、上位層の一部では「自分の力が十分でない」「成績が下がるのでは」といった自己効力感(self-efficacy)の低下も観察されました。
一見、自信に満ちて見える学生ほど、内面では強い不安とストレスを抱えている――。
この“逆説的な構図”は、オンライン学習環境に特有の心理的負担を示唆しています。

対面授業と異なり、オンラインでは他人との比較や講師のフィードバックが得にくいため、
「自分の努力が正しいのか」が分からず、自己評価が不安定になりやすいと考えられます。
その結果、成果を出している学生ほど孤立感や疲労を感じるという、“頑張る人ほど疲れる”ジレンマが浮かび上がりました。

中位層・下位層が伸びるカギは“自己効力感”と“整理力”

一方で、成績が中位および下位の学生に注目すると、上位層とはまったく異なる傾向が見えてきました。
中位層では、「自分ならできる」という自己効力感(self-efficacy)の高さが、最も強く成績と関連していました。
このグループの学生は、課題や試験に対して「努力すれば成果が出せる」と信じており、
その信念が学習意欲や集中力を支える“心理的エネルギー源”となっていたのです。

さらに、下位層の学生においては、学習内容を整理し、構造的に理解しようとする姿勢(organized studying / deep approach)が成績向上に直結していました。
ノートを体系的にまとめる、ポイントを図解化する、復習計画を立てる――こうした“整理力”が重要な役割を果たしていたのです。

この結果から、研究チームは「勉強時間を増やすことより、学び方の質を高めることが鍵」だと結論づけています。
中位層の学生には自己効力感を強化するメンタル面の支援を、
下位層の学生には学習内容を“見える化”するようなサポートが効果的だと提言しました。

つまり、どのレベルの学生にも共通して言えるのは、
「自分を信じて、学びを整理する力」こそが学習成果の土台になるということです。

パーソナライズ学習の時代へ

この研究が示したのは、「一律の勉強法では、すべての学生を伸ばせない」という現実です。
上位層には燃え尽きを防ぐためのストレスマネジメント
中位層には成果を引き出すための自己効力感の強化
そして下位層には学習内容を整理しやすくする構造的サポートが必要であることが明らかになりました。

研究チームは、こうした結果をもとに「学力層に応じた支援の最適化」を提案しています。
つまり、全員が同じ教材・同じ方法で学ぶのではなく、
一人ひとりの心理的特徴や学習傾向に合わせて“学び方そのもの”を調整することが重要なのです。

この考え方は、AIチューターやオンライン学習支援システムの設計にも応用できます。
学習履歴や集中度、心理状態をもとに、
「今この人に必要なアプローチ」を提案する――そんなパーソナライズ学習(personalized learning)が、これからの教育のスタンダードになるかもしれません。

私たち一人ひとりが、
「どんな環境で、どんな方法なら自分の力を最大限に発揮できるのか」を理解すること。
それこそが、オンライン時代の“効率的な勉強法”を見つける第一歩なのです。

参考文献

Chen, D.-P., Hour, A.-L., Tsao, K.-C., Huang, C.-G., Lin, W.-T., & Hsu, F.-P. (2024).
Examining the factors influencing academic performance of medical technology students in e-learning: A questionnaire survey.
PLOS ONE, 19(12), e0311528.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0311528
(Creative Commons Attribution License CC BY 4.0)