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地中海食は認知機能に関係する?脳に良い食事として注目される理由

年齢を重ねても、できるだけ認知機能を保ちながら生活したいと考える方は多いのではないでしょうか。そうした中で、近年とくに注目されているのが、毎日の食べ物や食事全体のパターンです。認知症や加齢に伴う認知機能の変化はさまざまな要因の影響を受けますが、その中でも栄養は見直しやすい生活習慣のひとつとして研究が進められてきました。今回取り上げる論文でも、栄養は認知に関わる修正可能な要因と位置づけられており、特定の成分だけを見るのではなく、食事全体の組み合わせとして考えることの重要性が示されています。

その中でも地中海食は、脳の健康との関係がたびたび議論されてきた食事パターンです。これまでの研究では、地中海食への高い遵守が、認知機能の低下や認知症リスクの低さと関係する可能性が報告されてきました。ただし、過去の研究には、食事の評価方法が統一されていないことや、認知機能を簡易的なテストだけで見ているものがあること、さらに記憶・言語・注意力などのどの領域に関係しやすいのかが十分に検討されていないという課題もありました。

そこでこの論文では、ギリシャの高齢者を対象に、地中海食への adherence と認知症の有無、さらに記憶・言語・注意速度・実行機能・視空間認知といった複数の認知領域との関係が詳しく調べられています。地中海食の本場に近い地域で、より丁寧な認知評価を行っている点は、この研究の大きな特徴です。つまり本研究は、単に「脳に良い食事とは何か」を探るだけでなく、地中海食が認知機能とどう関わるのかを、より具体的に見ようとした研究だといえます。

地中海食とは?高齢者の食事として注目される基本の食事パターン

地中海食とは、地中海沿岸地域でみられる伝統的な食事パターンをもとにした考え方で、野菜、果物、豆類、魚、オリーブオイル、そして全粒穀物などの精製度の低い穀類を中心に組み立てる食事として知られています。一方で、肉類や全脂肪の乳製品は控えめにし、食事全体のバランスで健康を整えていく点が特徴です。つまり、何か一つの“脳に良い食べ物”を足すというより、毎日の食事全体をどう組み合わせるかを重視するスタイルだといえます。

今回の論文でも、この地中海食は単なるイメージではなく、11の食品群をもとに点数化した「MedDietScore」で評価されています。具体的には、非精製穀物、果物、野菜、豆類、じゃがいも、魚、オリーブオイルのように地中海食らしさを示す食品は、摂取頻度が高いほど高得点になります。反対に、肉・肉製品、鶏肉、全脂肪乳製品のように地中海食から離れる食品は、摂取が少ないほど高く評価される仕組みです。さらにアルコールについても一定の範囲で点数化され、合計0〜55点のスコアが高いほど、地中海食への遵守が高いと判断されます。

ここで大切なのは、この論文が特定の栄養素や単一の食品だけでなく、食事パターン全体の質を見ていることです。実際、著者らも背景で、これまでの研究では地中海食が認知機能と関連してきた一方で、評価方法の違いが比較を難しくしていたと述べています。だからこそ本研究では、あらかじめ定義されたスコアを使って、高齢者の食事としての地中海食がどの程度守られているかを丁寧に評価しているのです。認知機能や脳の健康を考えるうえで、地中海食がしばしば取り上げられるのは、こうした食事全体をとらえる発想があるからだといえるでしょう。

この研究はどんな方法で調べた?対象者・食事評価・認知機能テストの概要

この研究は、ギリシャで進められている HELIAD(Hellenic Longitudinal Investigation of Ageing and Diet) という、地域住民を対象にした大規模研究のデータを用いて行われました。論文では、ギリシャの代表的な高齢者集団の中で、地中海食と認知機能がどのように関係するのかを調べることが目的とされています。対象となったのは 64歳を超える高齢者 で、参加者は自治体の記録から無作為抽出で選ばれていました。さらに、神経内科医、神経心理学者、栄養の専門家が面接や評価を担当しており、調査はかなり丁寧に行われています。

認知機能の評価では、簡単なスクリーニングだけで済ませるのではなく、包括的な神経心理学的評価が行われていました。論文では、記憶、言語、注意・処理速度、実行機能、視空間認知の5領域に分けて認知機能を測定し、それらをもとに総合的な認知スコアも算出しています。また、認知症の診断についても、単純な自己申告ではなく、臨床評価と神経心理学的評価を組み合わせたうえで判断されていました。つまりこの研究は、「なんとなく物忘れが多いかどうか」を見るものではなく、認知機能を複数の側面からかなり細かく捉えた研究だといえます。

一方、食事の評価には、ギリシャ人向けに妥当性が確認された 食物摂取頻度調査票(FFQ) が使われました。そして、地中海食への adherence は、0〜55点のMedDietScore で数値化されています。このスコアは、非精製穀物、果物、野菜、豆類、魚、オリーブオイルなどをどのくらい摂っているか、反対に肉類や全脂肪乳製品をどのくらい控えているかをもとに評価される仕組みです。さらに解析では、年齢、性別、教育年数、併存疾患、エネルギー摂取量なども調整されており、できるだけ食事そのものとの関連を見やすくする工夫がなされていました。こうした方法から見ると、この論文は「高齢者の食事パターンと認知機能の関係」を比較的しっかり検討した研究といえるでしょう。

地中海食と認知機能・認知症リスクの関係

この研究でまず目を引くのは、地中海食をよりよく実践している人ほど、認知症である可能性が低かったことです。解析対象となった 1,864人 のうち、90人が認知症 と診断されていましたが、地中海食スコアが高い人ほど認知症の割合は低い傾向にありました。さらに、年齢や性別、教育年数、併存疾患、エネルギー摂取量などを調整した後でも、地中海食スコアが1点上がるごとに認知症のオッズが約8%低下していました。

加えて、地中海食との関係は「認知症かどうか」だけにとどまりませんでした。論文では、記憶、言語、実行機能、視空間認知、そして総合的な認知スコアで、地中海食スコアが高い人ほど成績が良い傾向が示されています。一方で、注意・処理速度については、調整後の解析でははっきりした関連は見られていません。つまり、地中海食は認知機能全体に一律に関係するというより、特定の認知領域とより強く結びついている可能性がある、という見方が自然です。

その中でも、とくに印象的なのが記憶との関連です。著者らは、記憶が、完全調整後のモデルでも一貫して地中海食スコアと関連していた認知領域だと述べています。しかもこの傾向は、認知症のある人を含めた全体解析だけでなく、認知症の人を除いた解析でも確認されていました。認知機能という言葉は広いですが、この論文に限っていえば、地中海食とのつながりが最も安定して見えたのは記憶だったと言えます。

さらに著者らは、アルツハイマー病関連認知症に限定しても、ほぼ同じ方向の結果が見られたと報告しています。つまり今回の結果は、たまたま一部の認知症を含んだから出たものではなく、高齢者の食事パターンと脳の健康の間に、ある程度一貫した関連がある可能性を示しているわけです。

もちろん、この段階で 「地中海食を食べれば認知症を防げる」 と断定することはできません。ただ、この論文が示したのは、地中海食への高い遵守が、より良い認知機能、とくに記憶の良さや、低い認知症リスクと結びついていたという点です。認知機能と食べ物の関係を考えるうえで、かなり重要なヒントを与えてくれる結果だと言えるでしょう

魚や全粒穀物はどう関係する?記憶力と食事をめぐる注目ポイント

この論文では、地中海食という全体の食事パターンだけでなく、その中の食品群もあわせて検討されています。結果として、魚の摂取は認知症との関連がみられた食品群でした。論文では、魚を多く摂っている人ほど、認知症である確率が低い傾向が示されています。

一方で、認知機能の成績そのものと有意に関連していたのは非精製穀物でした。つまり、全粒穀物に近い食品を含む食習慣は、認知パフォーマンスと結びついていたことになります。著者らは、この背景に抗酸化作用食物繊維の多さなどが関わっている可能性にも触れています。

ただ、この研究が本当に伝えているのは、魚だけ食べればよい、全粒穀物だけ摂ればよい、という話ではないということです。

論文では、個別の食品よりも、地中海食全体への adherence のほうが認知機能との関連は一貫していたと述べられています。つまり大事なのは、単品の“脳に良い食べ物”を探すことより、魚、野菜、豆類、オリーブオイル、非精製穀物などを含む食事全体をどう整えるかなのです。

その意味で、魚や全粒穀物はたしかに注目ポイントですが、あくまで地中海食という全体像の中で意味を持つ要素として見るのが、この論文にいちばん沿った読み方だといえるでしょう。

なぜ地中海食が脳健康に良い可能性があるのか?考えられる理由

この論文では、地中海食が認知機能と関係する理由はまだ完全にはわかっていないとしつつも、いくつかの可能性が挙げられています。ひとつは、血管の健康を保ちやすい食事パターンであることです。血管の状態は脳の働きにも深く関わるため、その積み重ねが認知機能にも影響しているのではないかと考えられています。

また、地中海食には抗酸化作用抗炎症作用が期待される食品が多く含まれます。野菜、果物、豆類、魚、オリーブオイル、非精製穀物などを中心にした食事は、脳にとっても負担の少ない食べ方である可能性があります。今回の研究で、非精製穀物が認知機能と関連していたことも、その考え方と重なる部分です。

さらに著者らは、記憶との関連がとくに一貫していたことから、地中海食が神経変性の進行と何らかの形で関わっている可能性にも触れています。ただし、この論文だけでそこまで言い切ることはできません。

大切なのは、魚だけ、全粒穀物だけを食べればよいという話ではないことです。論文でも、個別の食品より地中海食という全体の食事パターンのほうが重要かもしれないとまとめられています。つまり、脳に良い食べ物を一つ探すより、毎日の食事全体を整える視点のほうが、この研究には合っていると言えそうです。

この研究の注意点は?因果関係まで言い切れない理由

ここまで見ると、地中海食は認知機能に良さそうだと感じます。実際、この論文でも前向きな関連が示されています。

ただし、ここで大切なのは、この研究だけで因果関係を断定することはできないという点です。著者ら自身も、この解析は横断研究であり、「地中海食を続けていたから認知機能が良かった」とまでは言えないとはっきり述べています。逆に、もともと認知機能が保たれていた人のほうが、食事を整えやすかった可能性も残ります。つまり、逆因果を完全には否定できません。

もうひとつの注意点は、食事の評価が食物摂取頻度調査票(FFQ)による自己申告だったことです。こうした方法は大規模研究では一般的ですが、日々の食事を正確に思い出すのは簡単ではありません。特に認知機能が低下している人では、申告に誤差が入る可能性があります。もっとも、この論文では訓練を受けた調査者が聞き取りを行い、必要に応じて介護者が補助する形が取られていました。

それでも、研究としての強みはしっかりあります。認知機能は複数領域にわたる包括的な神経心理学的評価で調べられており、認知症の診断も標準的な基準にもとづいて行われていました。さらに、対象者は地域住民ベースの代表性のある集団で、年齢や教育年数、併存疾患など多くの要因も調整されています。

つまり、この論文はかなり参考になる有力な研究ではあるものの、結論としては「関連が示された」と受け取るのが適切です。著者らも、今後は追跡研究や臨床試験で確かめていく必要があるとまとめています。論文を誠実に読むなら、ここはとても大事なポイントです。

まとめ:認知症予防を意識するなら“単品”より食事パターンを見直そう

今回の論文から見えてきたのは、地中海食への adherence が高い人ほど、認知症ではない状態や、より良い認知機能と関連していたということでした。中でも、記憶との関連がとくに一貫していた点は、この研究の大きなポイントです。

また、魚や非精製穀物のように注目される食品群もありましたが、論文全体を通して強調されているのは、個別の食べ物よりも、地中海食という全体の食事パターンのほうが重要かもしれないという視点でした。これは、「脳に良い食べ物をひとつ探す」という発想よりも、毎日の食事全体を少しずつ整えていくことの大切さを示しているように感じられます。

もちろん、この研究は横断研究なので、地中海食が認知機能を守ったと断定することはできません。それでも、代表性のある高齢者集団を対象に、認知機能を複数の領域から丁寧に評価したうえで、ここまで一貫した関連が示されたことには十分な意味があります。

認知症予防や脳の健康を意識するとき、特別な食品だけに期待を集めるのではなく、野菜、果物、豆類、魚、オリーブオイル、非精製穀物を含むような食事全体の質に目を向けること。今回の論文は、その考え方を後押ししてくれる研究のひとつだと言えそうです。

参考文献

Anastasiou CA, Yannakoulia M, Kosmidis MH, Dardiotis E, Hadjigeorgiou GM, Sakka P, et al. Mediterranean diet and cognitive health: Initial results from the Hellenic Longitudinal Investigation of Ageing and Diet. PLOS ONE. 2017;12(8):e0182048. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0182048