「最近なかなか寝つけない」「夜中にスマホを触って気づけば2時」「朝起きても頭がぼんやりして授業に集中できない」──そんな睡眠の悩みを抱える大学生は、年々増えています。実際、複数の調査では大学生の半数近くが“睡眠の質が悪い”と自覚しているというデータもあります。
一般的には「夜ふかし」「スマホの光」「不規則な生活」などが原因として語られますが、同じ生活習慣でも“ぐっすり眠れる人”と“眠れない人”がいるのはなぜでしょうか?
もしかすると、不眠の背景には「性格」や「メンタル傾向」も深く関係しているのでは? という視点が、近年の研究で注目され始めています。
今回紹介するのは、国際ジャーナル・PLOS ONEに掲載された「大学生167人を対象に、睡眠の質と気質・生活習慣の関連を調べた研究」です。
「ネガティブになりやすい人は不眠になりやすい?」「努力家タイプは睡眠に強い?」「生活習慣は性格によって左右される?」──そんな疑問に、データで答えてくれる内容になっています。
この記事では、その研究結果をもとに、**“不眠を引き起こすメンタル特徴”と“睡眠を守る気質”**についてわかりやすく解説していきます。
研究概要
この研究は、アメリカのカリフォルニア大学アーバイン校(UC Irvine)で行われ、18〜26歳の大学生167名を対象に実施されました。男女比は女性が約6割で、部活動に所属する学生とそうでない学生の両方が含まれています。
参加者には、以下の4つのポイントについてオンライン調査が行われました。
- ① 睡眠の質(PSQI:Pittsburgh Sleep Quality Index)
▷「寝つきの早さ」「途中覚醒」「睡眠時間」「熟睡感」などを数値化する指標 - ② 不眠の程度(ISI:Insomnia Severity Index)
▷「寝つけない」「途中で目が覚める」「生活への支障」などをスコア化 - ③ 性格・気質(ATQ:Adult Temperament Questionnaire)
▷「不安になりやすさ」「気持ちの切り替え力」「社交性」などを測定 - ④ 睡眠衛生(Sleep Hygiene Index)
▷「寝る前のスマホ」「深夜のカフェイン摂取」「日中の長時間昼寝」など習慣面をチェック
この調査の目的は、
「性格(気質)は睡眠の質に影響しているのか?」
さらに
「その影響は“生活習慣(睡眠衛生)”を通じて起こるのか?」
という2点を検証することでした。
つまり、研究チームは
✅ ネガティブな気質 → 不眠につながる?
✅ 努力的で自己調整力がある人 → 睡眠の質が高い?
✅ 性格によって睡眠習慣も変わる?
といった仮説をデータで確かめたわけです。
睡眠の質を下げる「ネガティブ気質」とは?
研究の結果、まず明確にわかったのは、
「ネガティブな感情を抱きやすい人ほど、睡眠の質が低く、不眠になりやすい」
という傾向です。
ここでいう“ネガティブ気質(Negative Affect)”とは、以下のような傾向を指します:
- ちょっとしたことで不安になりやすい
- 悩みや考えごとを引きずりがち
- イライラ・怒り・落ち込みを感じやすい
- 気分転換が苦手
- 夜に思考が止まらなくなる
こうしたタイプの人は、ベッドに入っても頭の中で考えごとが続きやすく、
「寝なきゃ…でも眠れない」
「明日の予定が不安で目が冴える」
「ネガティブ思考が止まらない」
といった状態になり、不眠につながりやすいと考えられています。
実際にこの研究でも、
ネガティブ気質のスコアが高い人ほど、PSQI(睡眠の質)とISI(不眠度)の数値が悪化していました。
つまり「メンタルの特徴」がそのまま睡眠に影響していたということです。
さらにこの傾向は、男女問わず見られた点も重要です。ストレス社会や将来不安の中では、性格・気質による“眠れなさ”が見過ごされやすくなっています。
睡眠を守る「努力コントロール(Effortful Control)」とは?
一方で、睡眠に“プラスの影響”を与える性格特性も明らかになりました。
それが**「努力コントロール(Effortful Control)」**と呼ばれるメンタル資質です。
これは一言でいうと、
「自分の感情や行動をコントロールできる力」
のこと。具体的には以下のような特徴があります👇
- イライラしても切り替えができる
- 気持ちや注意を必要なことに向け直せる
- スマホ・夜更かし・だらだら行動を抑えられる
- 寝る時間をある程度守れる
- 寝る前に気分を落ち着かせるのが得意
研究結果では、
✅ 努力コントロールが高い人ほど「睡眠の質が良く、不眠傾向が低い」
✅ 睡眠衛生(寝る前の習慣)も良好になる傾向がある
という2点が確認されています。
つまり、同じ生活リズムでも
「気分を切り替えられる人」「自制できる人」ほど、睡眠面でもダメージを受けにくいということです。
さらに注目すべきなのは、
努力コントロールは“性格だからどうにもならない”ものではないという点。
トレーニングや習慣づけによって改善される可能性が示唆されており、実生活への応用余地も大きい特性です。
性格と睡眠をつなぐ「睡眠衛生」の役割
この研究で特に注目されたのが、
“性格そのもの”ではなく、“生活習慣を通じて”睡眠に影響が出ている
という点です。ここが最大のポイントです。
研究では「睡眠衛生(Sleep Hygiene)」と呼ばれる習慣が詳しく調査されました。睡眠衛生とは、睡眠に悪影響を与える行動のことを指します。
🔻睡眠を悪化させる行動の例
- 寝る直前までスマホ・ゲーム・SNSを触る
- 夜中のカフェインや夜食
- 就寝時間が日によってバラバラ
- 長すぎる昼寝
- ベッドの中で動画・作業・だらだら時間
- 寝る前に気持ちを切り替えられない状態
分析の結果はかなりはっきりしていて──
✅ ネガティブ思考が強い人ほど、睡眠衛生が悪くなりやすい
✅ その悪い習慣が、不眠や睡眠の質の低下を引き起こしていた
✅ 逆に、努力コントロールの高い人は睡眠習慣も整いやすい
つまり研究が示したのは、
性格 → 習慣 → 睡眠の質
という“間接的なつながり”があるということ。
ここが重要です。
「気質は変えにくい」けれど──
“睡眠衛生は行動で変えられる”=改善の余地がある
という希望につながります。
性格そのものを責めるのではなく、
「どんな習慣パターンに出やすいか」を理解することが第一歩になります。
まとめ:性格は変えられなくても「睡眠の質」は変えられる
ここまでの研究結果からわかったのは、不眠や寝つきの悪さは「生活リズムの乱れ」だけでなく、「その人の気質やメンタル傾向」とも関係しているという点です。ただし誤解してほしくないのは、性格そのものが直接“眠れなさ”を生み出しているわけではないということです。
むしろ影響していたのは、「夜の過ごし方」や「寝る前の習慣」でした。ネガティブ思考に陥りやすい人は、考えごとや不安感からスマホや夜更かしに走りやすく、それによって睡眠の質が下がってしまう。一方で、気持ちや行動を切り替えられる“努力コントロール”が高い人は、自然と睡眠を邪魔しない行動をとりやすく、結果として睡眠の質も保たれる──そんな構造が見えてきます。
とはいえ、「性格を変える」のは簡単ではありません。でも安心してください。研究でも示されているように、睡眠の質を左右していたのは“その人の習慣”です。習慣であれば、今日からでも少しずつ変えていくことができます。
たとえば、
- 寝る前にスマホを触る時間を区切る
- 布団の中を「作業する場所」にしない
- カフェインや夜食を控える
- 寝る前のルーティンを決める
- 気分の切り替えがしやすい環境をつくる
こうした工夫だけでも、睡眠の質は十分改善できます。「自分はメンタル的に眠れないから」と諦める必要はありません。むしろ、自分の傾向を知っておくことは、改善のヒントになります。
性格は変わらなくても、睡眠は変えられます。
大事なのは「自分はどのタイプか?」を知った上で、できる範囲から習慣を整えていくことです。それだけで、不眠に振り回されない未来は十分つくれます。
参考文献
Lukowski, A. F., & Tsukerman, D. (2021). Temperament, sleep quality, and insomnia severity in university students: Examining the mediating and moderating role of sleep hygiene. PLOS ONE, 16(7), e0251557.
DOI: 10.1371/journal.pone.0251557